暑くて、埃立つ喧噪の旅が始まった。アジア諸国の湿気やトラブルを思い起こさせるタイトルがまた心ワクワクさせる。何事もスムーズにいかない旅こそ何故か興味深いものになるのだから不思議だ。
そしてなんと、著者の蔵前氏は海外旅行には全く興味がなかったのに、過労と失恋が引き金となってインドへ旅立ったことがバックパッカー旅の始まりだったとか。
三島由紀夫が「インドは呼ばれないと行けない」と言ったそうだが、きっと蔵前氏の魂はインドに呼ばれてしまったのだろう。とても運命的に。
何故ならばそのインド旅がきっかけで蔵前氏は旅行作家になったのだから。それを運命と言わずになんと言うのだろうか。
本書では蔵前氏が旅先で出会った一癖も二癖もある旅人たちが登場してくる。
ビンボー旅を執拗に自慢してくる旅人、着替えを持たない文字通り身軽な旅人、初めての長期休暇の十日間の旅を大切にしている旅人などだ。
そんなある意味まっすぐな人々を時に揶揄し、時に感動を貰ったりしながら出逢う人々と時間を共有して自分の中から湧き出てくるあらゆる感情を噛みしめながら蔵前氏の旅は進んで行く。
「人生は旅なのだ」誰かがそう言った。
日常からの脱出が旅だったのに、旅が長くなって行くにつれ日常化して行く瞬間、旅の目的が次の段階へと上がる。
本書は蔵前氏がそんな旅を通じて感じ取った魂の成長が軽快な文章と味のあるイラストで表現された旅エッセイ本なのだ。
1998年にインド、ネパールを一人旅した私としてはバラナシの朝のプジャの音色を、ヒマラヤが見えるナガルコットの宿から見た朝焼けを思い出さずにはいられなかった。
蔵前仁一氏主宰の「旅行人」のサイトです。